大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和38年(ネ)356号 判決 1966年9月14日

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人の勝訴部分を除くその余の敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、左記補足のほか、原判決の当該摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一枚目裏一一行目、同二枚目表二行目、同裏四行目、九行目および末行にそれぞれ「山岡ヒサヨ」とあるのを、いずれも「山岡久代」と各訂正する。)。

控訴代理人の主張

控訴人は、次の理由により本件連帯保証債務について責任はない。すなわち控訴人は、昭和二一年六月から昭和三三年一〇月まで、麻生産業株式会社田川工場に機械課員として勤務し、その後は同社上三緒炭坑に勤務している者であり、永松照雄、森岡光らはいずれも右田川工場の指定請負人であつた。しかるところ、そのころ右田川工場においてはセメント製造機の増設工事が施行されることとなり、永松照雄および森岡光らが右工事を請負つたのであるが、資金逼迫のため、次の手段方法で山岡久代から請負代金に見合う資金の融通を受けることとなつた。

1  主債務者は永松照雄か森岡光とすること。

2  主債務者でない者は連帯保証人となること。

3  借入金は請負代金に見合う程度のものであること。

4  借入金の回収方法として借用証一通、工事請負高証明書一通、工事金受取りの委任状二通を山岡久代に交付し同人をして工事金を受け取らせること。

5  控訴人において連帯保証人となること。

しかして、控訴人が連帯保証人となつたのは、山岡久代において、永松照雄、森岡光らが田川工場から受け取るべき請負代金中から円滑に貸金の回収ができるよう便宜を与えるためにほかならぬのであつて、田川工場に勤務中にかぎり右趣旨における責任を負担していたにすぎない。しかるに控訴人は、前記のごとく田川工場から上三緒炭坑に勤務することとなつたのであるから、控訴人においては、もはや、その後の貸借につき何ら責任を負うべき理由はない。

証拠(省略)

理由

甲第一号証中控訴人名下の印影が、控訴人の印章を押捺して顕出されたものであることについては当事者間に争いがないので、同号証は真正に成立したものと推定すべきである(控訴人は、甲第一号証の成立を否認するが、原審および当審における控訴人本人尋問の結果をもつてするも、同号証が控訴人不知の間に控訴人の印章が盗捺され偽造されたものであることまでの事実はこれを確認しがたく、むしろ証人山岡久代の証言「原審第一、二回および当審、原審第一回では山岡ヒサヨとなつているがこれは同一人と認められる。」によれば、同号証は真正に成立したものと認めるのが相当である。)。

よつて、右甲第一号証に右山岡証人の証言、原審証人久田円之助、同証人愛宕銀治の各証言および同控訴人本人尋問の結果の一部を総合すると、控訴人は、昭和二一年六月ごろから麻生産業株式会社田川工場に勤務し、請負関係の業務を担当していたところから、右工場の指定請負業者であつた永松照雄と知り合い同人が昭和二二年三、四月ごろ以降山岡久代から金員を借用するに当り、その都度森岡光とともにその連帯保証人となつていたこと、しかして昭和三四年三月一日現在において右借受金の総額が金九○万円となつたので、同日控訴人および右永松照雄ならびに森岡光の代理人愛宕銀次の三名において山岡久代方に赴き、同人との間において右借受金債務の存在することを確認し、主債務者永松照雄は右金員を月五分の利息を付して同月三一日までに支払う旨約束し、控訴人および前記森岡の代理人愛宕銀治がそれぞれこれに連帯保証をなすことを約束し、愛宕銀治においてその旨の借用証(甲第一号証)を作成し、控訴人はその名下に自己の印章を押捺して山岡久代にこれを交付したものであることが認められる。控訴人は右認定の事実を争い、控訴人が連帯保証人となつたのは、山岡久代において永松照雄らが田川工場から受け取るべき請負代金中から円滑に貸金の回収ができるように便宜を与えるためにほかならず、その趣旨を出るものではない旨主張するが、かような事実はこれを確認するに足る証拠はなく、また控訴人は、控訴人が連帯保証責任を有するのは、控訴人が田川工場に勤務中にかぎるものであり、控訴人において田川工場から上三緒炭坑に転勤するに至つた後の貸借については何ら責任を有しない旨抗争するけれども、かかる事実もまたこれを確認するに足りるものはない。その他証人愛宕銀次の証言(原審)および控訴人本人尋問の結果(原審および当審)中前記認定に反する部分は前掲各証拠と対比して措信しがたく、他に右認定を左右するに足る確証はない。

次に、債権譲渡およびその旨の通知ならびに右通知が控訴人らに到達した点については、当裁判所も原審の認定を正当と認めるので、原判決の当該部分(原判決四枚目表三行目から同末行まで。)を引用する。

また控訴人は、山岡久代において連帯保証人の一人である森岡光に対しその連帯保証債務を免除しているから、控訴人は金九〇万円の二分の一すなわち金四五万円についてのみ支払義務があるにすぎない旨抗弁する。しかしながら、控訴人は、主債務者である永松照雄の前記債務について連帯保証をなしたものであるが、連帯保証人については負担部分なるものは存しないのであるから、これを前提とする民法第四三七条の規定は準用の余地がなく、控訴人の前記抗弁は理由がない。また控訴人は本件債務のうち五、六〇万円は弁済ずみである旨抗弁するが、かかる事実もまたこれを認めるに足りる何らの証拠もない。

ところで被控訴人は、本件貸金に対し年三割六分の割合いによる遅延損害金の支払いを求めているが、しかし本件貸金につき遅延損害金の特約が存した事実の認めがたき本件においては、遅延損害金は前記利息についての約定利率を利息制限法所定の利率に引直した年一割八分の割合いによる利息と同率の限度においてのみ請求しうるにすぎないものというべきである。しかるときは、控訴人に対し金九〇万円およびこれに対する昭和三四年三月一日以降支払いずみに至るまで、年一割八分の割合いによる利息および損害金の支払いを求める限度において被控訴人の本訴請求を認容し、その余を失当として棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条に従い、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例